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BookReview(32)『EV イブ』―日本の電動化施策からハイブリッド車を除外せよ!

2022年3月24日更新

書評_「EV」_1

電気自動車=EVを題材にした経済小説である。

主人公は、経済産業省の若き官僚・瀬戸崎啓介。日本の自動車産業がEVへの移行に著しく立ち遅れている現状を憂う人物だ。

瀬戸崎の父はエンジン車の修理に長けた整備工場の社長で、義兄はトヨタとおぼしきヤマト自動車でハイブリッド車用の最新エンジンを開発するエンジニア。そして、自身が勤める経産省は、電動車推進施策にハイブリッド車を入れることを是としている。

彼は、そんな環境にありながら、日本の自動車産業の生き残りを図るためには、エンジンのないクルマ、すなわちハイブリッド車を除外したEV主体の電動化が必須と考え、積極的に動いている。

「自動車も同じです。エンジン車からEVへと、今後、大きく変わることは必至です。日本も世界の動静を見極めて、適切に対処しなければ世界に取り残されます」

物語の中で、彼はこのように発言しているのだ。

中国のハイブリッド車OKは
日本潰しのための策略!?

瀬戸崎が電動車からハイブリッド車を除外すべきと考えるのは、中国の動向に大きな危機感を覚えているからだ。

中国は2030年からエンジン車禁止の電動化施策を進める中で、ハイブリッド車は是とする方針を打ち出している(現実には2035年から)のだが、瀬戸崎は策略の可能性が大だと見ている。

彼が考える中国の筋書きはこうだ。

まだ中国に大きなハイブリッド車の市場があることにしておけば、日本の政府と自動車メーカーを油断させられる。「もう少しハイブリッド車を製造・販売し続けても安泰だ」と思わせ、EV化推進を遅れたままにしておける。

その上で、2030年の期限寸前にハイブリッド車の除外を決定すればどうなるか。日本はハイブリッド車を抱えたままガラパゴス化する。世界のEV化の潮流に完全に取り残され、日本の自動車産業は壊滅的な状況に陥る。

中国は、日本を置き去りにしたまま、EVを中心とした世界No.1の自動車大国として君臨していくことになる……。

瀬戸崎は、こうした見方を基に、日本の自動車産業を救うべく奔走する。

彼は、菅義偉前総理大臣らしき波多野勝彦総理大臣、トヨタの豊田章男社長らしきヤマト自動車の小此木晴彦社長、テスラのイーロン・マスクCEOらしきステラのウイリアム・デビッドソンCEOなど、錚々たる人物と会い、議論し、交流を深めながら妙手を探る。ハイブリッド車を除外した際には、数百万人の労働者が職を失う可能性があり、その救済も想定しなければならない。難しい判断を迫られる。

一時、部署転換させられるなど挫折も味わうが、瀬戸崎は逆境をもテコにして突き進んでいくのである。

果たして、彼の努力は実を結ぶのか。日本の電動車施策からハイブリッド車を外し、EV一本(将来的には燃料電池車も含む)へと移行させ、日本の自動車産業の救済へと向かうことができるのだろうか?

結末は、ぜひ本書を読んで確かめていただきたい。

この小説は、現実を下敷きにしつつも、実際の出来事と大きく異なっている部分が多々あり、鼻白むところがある。さらに、経済小説ゆえか登場人物が魅力に乏しく、感情移入しにくいところがある。

だが、今の中国の電動車施策における「ハイブリッド車OK」が日本潰しの策略かもしれないという見方にはハッとさせられる。それもあり得る話と思えば、かなり興味深くストーリーを追うことができる。

世の中、何がどうなるかはわからない。荒唐無稽と思われることも時には現実となり得る。だとしたら、あらかじめ危機に備え、適切な対処法を考えておいて損はない。そんな気にさせる一冊である。

書評_EV_2

『EV イブ』
・2021年9月18日発行
・著者:高嶋哲夫
・発行:角川春樹事務所
・価格:1,870円(税込)

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