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2021全日本EVグランプリシリーズ 第7戦 レポート②―「女子に二言はない」。今橋彩佳選手が宣言どおりに初優勝を決めた!

2021年11月16日更新

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2021全日本EVグランプリシリーズ(ALL JAPAN EV-GP SERIES)の最終戦(第7戦)。決勝は午後1時30分にはじまった。

雨が激しくなり、コンディションは完全にウエット。コース上には池や川までできていた。

波乱を予感させる氾濫の光景。テスラモデル3を駆る上位4人の誰が勝つのか、ますます読めない状況となっていた。

唯一予測できたのは、雨で全体的にスピードがダウンするので、ピットスタートのTAKAさん選手にもチャンスがあるだろうということ。攻め続けてミスさえしなければ、表彰台ゲットも決して夢ではない。

水しぶきの中での
熾烈なトップ争い

雨に煙るレッドシグナルがブラックアウトし、決勝レースがスタートした。

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大量の水しぶきを上げながら、上位4台のモデル3は順位を崩さぬまま第1コーナーを抜けていった。先頭はアニー選手。それに今橋彩佳選手、KIMI選手、いとうりな選手が続く。4台はバッドコンディションをものともせず、猛スピードを出し、1周目から後続をあっという間に引き離していった。

後で知ったことだが、4人のクルマが履いていたのはレインタイヤではなくSタイヤ。それでこの速さなのだから恐れ入るほかない。

だが、数周を経たところで、この4台の位置関係に変化が訪れる。トップのアニー選手と2番手の今橋選手の速さが際立ちはじめたのだ。

レース前に「ポールからトップのまま走り続けて優勝を狙いたい」と語っていたアニー選手は、「池」を越え「川」を渡りながら平均速度110キロを超える走りを披露し、独走態勢をつくろうとしていた。しかし、「早い段階でトップに立ち、後続を抑え切って優勝するつもり」と語っていた今橋選手
がそれを許さず、テールトゥノーズで追いすがる。序盤は様子見を決め込んでいた3位・4位との差がどんどん広がっていくのは必然だった。

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しばらくすると、この2台によるトップ争いにも変化が生じる。ストレートでの速さは両者互角だったが、コーナーを回るときに今橋選手はスピードをあまり落とさずインを突く果敢な走りをし、アニー選手のクルマの横に顔を出すことが多くなった。彼女がアニー選手を抜くのは、時間の問題といえた。

レース前、今橋選手は「EVを速く走らせる感覚がつかめた」と語っていた。以前に行った単独インタビュー2021全日本EVグランプリシリーズ 第5戦 レポート③でも、自らが編み出したEVを速く走らせる方法を披露してくれていた。

「エンジン車のレースだと、コーナリングのときは手前でしっかりブレーキングしてからコーナーをスムーズに曲がっていき、立ち上がりで強く加速するといった走りをしますよね。でも、このEVレースではテスラ モデル3の挙動特性を意識して、あまり強くはブレーキングせず、ちょっとオーバースピード気味にコーナーに入り、タイヤをズルズルさせながら曲がって立ち上がるようにしているんです。そういうダラダラというかメリハリのない走りが、結構タイムを縮めることに繋がっているのかな、と」

今橋選手は滑りやすいコンディションの中、言葉どおりの走法を実践していたのである。おそるべき才能だ。

結局、レース中盤に差し掛かった8周目、第5・6・7コーナー(複合コーナー)からの早い立ち上がりに成功した今橋選手はアニー選手のマシンを一気に抜き去った。傘を差しながらその瞬間を目撃した我々を含む観衆は、一様に「おおー」と、雨音に負けない歓声を上げた。

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史上初! 女性選手の総合優勝

トップを奪取した今橋選手は、その後、作戦どおりトップを死守する態勢に入った。

だが、アニー選手も意地を見せる。今橋選手に離されることなく、逆にテールトゥノーズで追い、残り7周では1分20秒784のベストラップを出すほどの鬼気迫る走りを見せた。

会場の実況が「素晴らしいドッグファイト」と賞賛した興奮バトルは、ゴール直前まで繰り広げられた。

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最後はわずか0.6秒差。

栄光のチェッカーを受けたのは、ゼッケン2番の今橋彩佳選手が駆るテスラモデル3だった。

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宣言どおりの初優勝だった。そして、12年続く全日本EVグランプリシリーズにおける史上初の女性ドライバーによる総合優勝だった。まさに記憶と記録に残るメモリアルウインである。

ピットに戻った今橋選手に初優勝を祝す言葉をかけた。すると「優勝できたのはすごく嬉しい。でも、やっぱり地頭所君を倒して優勝したかった。来シーズン、もし2人とも出場するとなったら、絶対に彼を打ち負かして優勝したい」と返してきた。テクニックだけではなく、メンタルも並ではない。

これを聞いて、我々は、今後のEVレースは性差を超えた新しくも面白い競争の場となるとの予感を持った。そう言えば、レース前にいとう選手も「EVレースは踏力の弱い女性でも速く走れる」と語っていた。この予感は、きっとかなりの確率で現実のものとなるだろう。

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ところで、ピットスタートだったTAKAさん選手はどうなったのか?

雨で全体のスピードが落ちる中、予想どおりTAKAさん選手はごぼう抜きの走りを見せた。そして、同じモデル3の2台も終盤でパスし、目標どおり3位表彰台をゲットした。見事な巻き返しだった。

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かつてF1の中継で名選手が最後尾から追い上げて優勝したシーンを目撃して心が震えたが、TAKAさん選手の走りにはそれに近い感動があった。EVレースはエンジン音がない静かな戦いだが、こういった場面が随所にあるのである。

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● ● ●


さて、レポートの最後に、予選、決勝ともに最下位だった千葉栄二選手(#0 TAISAN EV Porsche916)の話を紹介しておきたい。

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千葉選手は黄色いポルシェ916をEVに改造した車両でEV-Cクラス(市販車のコンバートEVのクラス)にエントリーし、レースに挑んでいた。

このクルマは以前、日本EVクラブが主催するEVフェスティバルのイベントレースに参戦していた1台。電池容量こそ47.2kWhあるが、モーター出力は26kWと参戦車両中で最も小さく(テスラモデル3のモーター出力は360kW)、本格EVレースでは最下位になること必至の性能だった。

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にもかかわらず、なぜ参戦したのか?

千葉選手が所属するTEAM TAISANは、近年テスラ車2台体制で戦っている常勝チーム。2021年は地頭所光選手の4年連続総合チャンピオンを支え、チーム100勝も達成している。そのことを踏まえれば、シリーズの最後は勝者の余裕で遊び心を発揮し、遅いポルシェを走らせてみた、と推測もできるわけだが……。

だが、千葉選手はそれを言下に否定した。そうではなく、「チーム監督の千葉泰常代表がメーカーのポルシェに対し、真摯にエールを送るつもりで参戦を決めた」と言う。

どういうことか?

もともとTEAM TAISANは、エンジン車レースに参戦していたときにポルシェで勝ち続けた過去を持つ。チームにとってポルシェは原点を形づくった、リスペクトをもって遇すべきクルマとなっている。

だから、今シーズンの序盤、ポルシェが新しく出したEVのタイカンが参戦し、自チームのモデル3がそれを打ち負かしたとき、代表はとても複雑な気持ちを持つことになった。そして、シーズン途中でタイカンが離脱したときには、大切な仲間を失ったような悲しい気持ちで見送った。

そこで意を決して、ポルシェにエールを送ることを決めたのだった。古いポルシェ916のコンバートEVが、遅いながらも頑張って走る姿を見せれば、ポルシェを励まし勇気づけられるだろうし、EVレースへの参戦を促せるかもしれない。そうした想いからの参戦だったのである。

ただの余興でコンバートEVのポルシェを走らせたわけではなかった。なかなか奥深い話である。

では、来シーズンもこの遅いポルシェ916のコンバートEVを走らせるつもりなのだろうか。

千葉選手はこう言った。

「来季、我々のチームは、参戦するクルマを2台ではなくて3~4台に増やす予定でいる。このポルシェのコンバートEVは、そのうちの1台として走ることになる。ただ、その際は新たに改造を加えて、クラス優勝できるような車両に仕上げるつもり。代表は、今度はポルシェにEVレース優勝の栄光をプレゼントしたいと考えている」

事実、レース後の表彰式で、欠場したシリーズ年間チャンピオンの地頭所選手に代わって表彰を受け、特別功労賞も受けていた千葉代表がこんなことを語っていた。

「来季はチームにレディース選手を増やしたい。黄色いポルシェはもっと手を入れたうえで走らせたい」

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TEAM TAISANは、来季は参戦車両を増やし、しかも女性ドライバーを積極的に起用する心づもりのようだ。その女性ドライバーが乗るかどうかはわからないが、改良したポルシェ916のコンバートEVを速く走らせることで、ポルシェにレース参戦を働きかける考えでいるらしい。

なんだか、とても楽しい展開になりそうだ。

全日本EVグランプリシリーズは、より華やかに、より面白くなって来季も開催される。乞うご期待である!

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2021全日本EVグランプリシリーズ 第7戦 レポート

①王者の欠場、赤旗の中断。カオスな予選でアニー選手がトップに立った!

②「女子に二言はない」。今橋彩佳選手が宣言どおりに初優勝を決めた!

 

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