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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2021年8月27日更新
予選時ほどではないが、雨は依然としてポツポツと降っていた。コース上は全面にわたって黒く濡れ、場所によっては水たまりもできていた。
2021全日本EVグランプリシリーズ(ALL JAPAN EV-GP SERIES)第5戦『全日本 もてぎ EV 55㎞レース大会』の決勝は、そんなコンディション下の午後1時45分にはじまった。
インテリジェンスと実力で
優勝を勝ち取ったのは……
レースは、出だしから意外な展開となった。
ポールポジションの今橋彩佳選手がホールショットを獲るなど、スタートは一見、順当なものと映った。だが、よくよく見れば、いつのまにか地頭所光選手が前のTAKAさん選手をパスし、3位から2位へと踊り出ていた。
レース前、地頭所選手は「序盤は先頭についていき、後半に勝負を仕掛ける」といった発言をしていたが、その言葉とは裏腹に、スタート早々からアクセル全開の攻めに出たのである。
しかも、1周目後半の第5コーナーではトップを行く今橋選手までもオーバーテイク。地頭所選手は、気温や路面状況、ライバルたちの状況などを総合的に判断したうえでレースの勝敗を決めるポイントを意図的に1周目に定めた。そして、見事に成功した。
先行していたドライバーたちはもちろん、事前に決勝の意気込みを聞いていたこちら側も完全に裏をかかれた格好。地頭所選手にまんまと三味線を弾かれてしまったのであった。
結果的に、見応えのある優勝争いのバトルはこの最初の1周で終わった。全12周中の残り11周で、地頭所選手は少しペースを落としてバッテリーをあまり熱さないように注意しつつ、誰にも抜かされない、強い一人旅を続けた。最後は後続に約12秒の差をつけて開幕5連勝を飾っている。
レース終盤まで熾烈なバトルを期待していた者にとっては、正直、興ざめな展開だった。
ただ、「何が何でも勝つこと」がレースの至上命題であることを考えると、地頭所選手の戦略は大正解というほかなかった。この勝利が、現役東大大学院生のインテリジェンスと、3年連続シリーズチャンピオン&今季4連勝中のチャンピオンの実力によってもたらされたのだと捉えれば、なかなか味わい深くもあった。
少々古いが、地頭所選手の走りはかつてF1界でプロフェッサーと称されたアラン・プロストの嫌みなほどにクールで強いドライビングを髣髴とさせた。つまらなかったけど、凄みがあった。じわじわと感動を誘うレースだった。
勝利を諦めない今橋選手
怒濤の巻き返しを見せる
さて、1周目で地頭所選手に抜かれてしまった注目の今橋選手は、その後どうなったのか?
実は、トップを譲った直後の周回で、TAKAさん選手、アニー選手(スエヒロ テスラ3)にも次々抜かれ、一時は4位にまで後退した。その理由は後編の今橋選手のインタビュー記事で明らかとなるが、とにかく彼女は序盤から不本意な走りを強いられていた。
しかし、彼女の闘志は消えなかった。苦しみながらも先行車につかず離れずでついていき、虎視眈々と挽回のチャンスを狙っていた。
そして、レース中盤で先行車に加速制御の兆しが見えた瞬間を逃さず、果敢な攻めのドライビングを展開した。アニー選手、TAKAさん選手を続けざまにごぼう抜きし、2位のポジションへとジャンプアップしたのである。
予選の速さも見事だったが、この決勝における巻き返しの走りには心底感心した。女性ドライバー、強し!
ただ、優勝するには時すでに遅しであった。その後、トップを独走する地頭所選手を捕らえるべく加速を試みたものの、バッテリーの加熱による加速制御でタイムを縮めることができず、2位でチェッカーを受けるに留まった。勝つことが大好きな今橋選手にとって残念無念の結果となった。
とはいえ、決勝での2位はこれまでの最高順位。参戦3戦目であることを考えれば上出来の成績だ。最終戦までの残り2戦のいずれかで優勝する確率は、かなり高まったといえる。
結構熱かった
日本製電動車同士の戦い
ところで、このレースでは、5台のテスラ モデル3の戦い以外にも、興味深い戦いがあった。
それは、日本の自動車メーカーがつくった電動車同士の戦いである。EV-Fクラスにエントリーしていた飯田章選手(#104 トーヨーシステムミライ CNR アキラR)が駆るFCVのトヨタMIRAIと、EV-2クラスにエントリーしていたレーサー鹿島選手(#88 東洋電産・LEAFe+)が駆るEVの日産リーフe+が、レース序盤から終盤にかけて、終始接戦を繰り広げたのだ。
序盤から中盤は飯田選手のMIRAIが総合6位で先行。鹿島選手のリーフe+はそれにピッタリくっついて7位で走行し続けた。静かなれど熱いバトル。観客に国産FCVと国産EVのどちらが速いのかの興味を誘い、目が離せない状況をつくっていた。
結局、終盤でMIRAIが急に極端なスローダウンをはじめ、総合6位争いの軍配は鹿島選手のリーフe+に上がった。両車のクラスは別ではあるものの、ある意味、EVの勝利ということになった。
だが、観客からは「FCVとEVの戦いは結構面白かった。燃料電池車のFCVって重いんだろうけど、意外に速いんだね」とMIRAIの健闘をたたえる声が聞かれた。また、「MIRAIが急激にスローダウンしたのは、やっぱり積んでいるバッテリーが小さくて、過熱するとEVよりも激しく加速制御が効くせいなのかな?」といったシステムの謎を探る声まで聞かれた。
日本の電動車への関心は、このような競争の場からどんどん広がっていく。そんな印象を受けた。
レース当日は東京オリンピックの開催期間。その影響でナショナリズムが疼いたわけではないのだが、この2台の戦いを目の当たりにした我々は、「いつか、日本製の電動車によるトップ争いを見たい」との願いを共有した。
果たして、それはないものねだりなのか、それとも実現可能な夢なのか。日本の自動車メーカーによる、チャレンジングな電動車開発に期待したい――。
今回の第5戦が終わり、今季の全日本EVグランプリシリーズは、10月3日の筑波と10月31日の袖ケ浦でのレースを残すのみとなった。このレポートを読んで関心を持った方は、ぜひ一度観戦してもらいたい。参戦する各車の特徴やドライバーの特性を頭に入れておけば、きっと楽しみが深まるに違いない。
2021全日本EVグランプリシリーズ 第5戦 レポート
①雨の予選、実力派の女性ドライバーがトップタイムを叩き出した!
②序盤に展開あるも、チャンピオンは嫌みなほどに強かった!
③「私が勝つことでレース界が盛り上がっていけばうれしい」(今橋彩佳選手)
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