ロータスクラブが運営するクルマとあなたを繋ぐ街「ロータスタウン」
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2021年5月14日更新
ポルシェ タイカンが、4月10日(土)に富士スピードウェイで開催された『2021全日本EVグランプリシリーズ』第1戦に参戦した。
初のレースということで国内外から熱い視線が注がれた。
何しろスポーツカーの代名詞であるポルシェがつくった初めてのEVであり、モーター出力560kWで0-100km/h加速2.8秒を誇る最上機種のターボSである。実力のほどは走る前から明らかで、「ここ数年のEVグランプリシリーズを席巻してきたテスラ モデル3勢を打ち負かす可能性は大」と予想する声も多かった。
午前10時15分に開始された予選では、事前の予想を大きく後押しする光景が展開された。
KUNIこと国江仙嗣選手(GULF RACING Taycan)が駆るゼッケン36のポルシェ タイカンが、EVグランプリシリーズにおける富士スピードウェイ最速タイムとなる1分54秒882をマーク。昨シーズンまで3年連続総合チャンピオンである地頭所光選手(TEAM TAISAN 東大 UN テスラ)が駆るゼッケン1のテスラ モデル3を抑えて見事ポールポジションを獲得したのである。
恐るべしタイカン。初出場初優勝という偉業達成への期待が大いに高まった。
予選結果
1 KUNI(GULF RACING Taycan)1'54.882
2 地頭所光(TEAM TAISAN 東大 UN テスラ)1'55.779
3 TAKAさん(適当Lifeアトリエ Model3)1'57.837
4 KIMI(GULF.RACING.Model3)1'59.645
5 アニー(末広 Model3)2'01.019
6 千葉栄二(ガーデンクリニック TAISAN アキラR)2'03.011
7 レーサー鹿島(東洋電産・LEAFe+)2'17.017
8 廣瀬多喜雄(ノートe-Power Nismo S)2'34.071
9 大野博美(千葉県自動車大学校 ノートe-POWER)2'35.459
10 藤田広一(10thチャレンジ ノートe-POWER)2'35.531
11 内藤宏章(世界に1台だけのZZ)3'07.707
本レースの予選と決勝でのタイカンの戦いぶりについては、既に公開している【EVレースNewS】に詳しい。このレポートでは、レースの関係者や参戦者の戦力分析を交えつつ、ポルシェ タイカンとテスラ モデル3による決勝レースの裏側に迫る。
タイカンが優勝するには
弱点の克服が不可欠
まず、レースを主催する日本電気自動車レース協会(JEVRA)の富沢久哉事務局長に決勝の予想を聞いた。
富沢事務局長は「タイカン優勝の目はある」と明言。ただし「それを実現するためには弱点を克服する必要がある」とも語った。
タイカンの弱点とは、ほぼノーマル仕様で出場していたことだ。発売間もないためにレース仕様のパーツがなく、足まわりは素のまま。レース用Sタイヤも、信頼できる大手メーカーのものはサイズが合わず、仕方なく実績が少ないメーカーのものを履いていた。
「確かにストレートは速いが、車両重量が2トン半もあるのでコーナリングはかなり苦しむはず。決勝ではこの部分をどうカバーしていくかが問われるでしょう。ちなみに、もしクルマが完全なレース仕様になっていれば、予選で1分50秒を楽に切っただろうし、決勝も本命中の本命になっていたと思います」
そして富沢事務局長は、もう一つ懸念材料を挙げた。それはバッテリーの熱マネジメントがうまくいくかどうかだった。EVのバッテリーはサーキットのような場所で超高速走行を長時間続けると過熱し、劣化の恐れが出てくる。市販のEVの多くは、それを防ぐためにバッテリーが一定の熱を持つと自動的に加速が抑制されるようになっている。テスラ モデル3もポルシェ タイカンもその例にもれない。
「そういうシステムがある一方で、地頭所選手のテスラ モデル3にはオリジナルのバッテリー冷却装置が搭載されている。タイカンにはない装置です。それに地頭所選手はEVレースの経験が豊富なので、バッテリーを熱しない走法をよく心得ている。反面、EVレース初体験の国江選手にはそのノウハウがない――。こうした両者の差は勝敗に大きく影響する可能性があります。もし、国江選手が意気込むあまり、スタート直後からガソリンエンジン車のようにアクセル全開で走り続けたとすると、中盤にはバッテリーが加熱し過ぎて加速抑制が効き、失速してしまうでしょう。そうなると、優勝は地頭所選手をはじめとするモデル3勢になるものと思われます」
タイカン優勝の目はあるにしても、専門家からすると決して盤石とはいえないのであった。
国江選手と地頭所選手以外にも
優勝するチャンスはある
続いて、競い合う立場にいるドライバーの見立てを聞いた。
話してくれたのはテスラ モデル3で予選3位につけたTAKAさん選手(適当Lifeアトリエ)。昨シーズン年間総合2位の成績を残した実力派ドライバーだ。
TAKAさん選手は「あの圧倒的な加速はさすがポルシェ。一緒に走っていても見惚れてしまう」と賞賛。タイカンが優勝する可能性は十分にあると語った。
「富士は直線が長い。そして、直線はモデル3よりもタイカンのほうが断然速い。もし100Rやアドバンのコーナーで抜かれても、300Rで抜き返すことができる。そのまま第3セクター(ダンロップコーナーからパナソニックコーナー)でフタをすれば、ホームストレートでさらに引き離すことができる……。これを序盤から数周続けて差を広げ、その後冷静にバッテリーの熱マネジメントをしながら走れば、チャンピオン地頭所君を抑えて優勝するシーンが自ずと見えてきますね」
説得力のある予想である。ただ、この発言ではTAKAさん選手自身は最初からトップ争いに加わらないようにも聞こえる……。その点を質してみたところ、不敵な笑みとともにこんな答えが返ってきた。
「僕は、国江さんと地頭所君が熱くなってトップ争いをし、バッテリーの熱マネジメントが疎かになった瞬間を突くつもり。国江さんはEVレース初体験。地頭所君は普段はクールだけど、実はかなりの負けず嫌いでレース中に熱くなることがたびたびある。それが重なって2台が潰れてくれれば、僕の優勝もなくもないかな、と」
ポルシェ タイカンがテスラ モデル3より速いのは間違いない。しかし、優勝の行方はバッテリーの熱マネジメントとドライバーの頭の熱マネジメントにかかっているようだ。(文:みらいのくるま取材班)
2021全日本EVグランプリシリーズ 第1戦 レポート
①「タイカンは優勝候補だけど、バッテリーと頭を熱くすると勝てないかも」(富沢事務局長&TAKAさん選手)
②「世界中のポルシェファンのためにも、冷静な走りで完走を目指します」(国江仙嗣選手)
③「タイカンに乗り換えず、モデル3のままで戦ったのは大正解でした」(地頭所光選手)
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
自動車産業は世界的にEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)へのシフトが進んでいる。しかし、EV化=クルマの脱炭素化などと単純に言い切れないという論もここに…
2022.04.21更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
余郷選手へのペナルティが報告された後、ALLJAPANEV-GPSERIES2023の最後の表彰式が晴れやかに実施された。このときには雨も上がっていた…
2023.10.26更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
予言どおりの展開!?魔の6周目でタイカンは……コースを12周して合計55㎞を戦う決勝は、夕刻の16時15分にスタートした。スタートシグナルが消えた瞬間、グ…
2021.05.13更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
EV(電気自動車)の心臓とも例えられる駆動用バッテリー。現在、ほとんどのEVが駆動用バッテリーとして、リチウムイオン電池を搭載している。実は、「リチウムイオン電…
2020.07.07更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
ズラリと集結したモデル3とモデルYTEAMTAISANvs.スエヒロ自動車商会の激烈な戦いが繰り広げられたALLJAPANEV-GPSERIES…
2023.08.31更新
みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
超高齢化社会における交通問題の解決策のひとつとして、自動運転サービスの社会実装をめざしている国土交通省。2017年9月2日~9日、そのための最初の実証実験が栃木…
2017.10.10更新