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BookReview(25)『トヨタイムズ magazine 2020』 ―従業員思いの豊田章男社長は、EVが主体の電動化に異を唱える!

2021年6月3日更新



豊田社長を礼賛する一冊

トヨタはWEB上で『トヨタイムズ』というPR媒体を展開している。この『トヨタイムズ magazine 2020』はその雑誌版(ムック本版)ということになる。

両者は、しかし、内容も趣きも大きく異なっている。

WEB媒体の方は自社のPRを目的としつつも比較的ジェネラルな情報提供を行っているのだが、雑誌の方はほぼ全編にわたって豊田章男社長を礼賛するトーンとなっている。

いかに優れたリーダーか、いかにクルマづくりに情熱をもっているか、いかに先見の明があるか、などなど。トヨタの社員か豊田章男氏のファンならともかく、そうでない人たちが読むとだんだんと鼻白んでしまう可能性がなくもない。

では、なぜこの一冊を取り上げるのか。

雑誌の中盤あたりに、タレントのマツコ・デラックス氏&レーシングドライバーの脇坂寿一氏&豊田社長による鼎談記事があり、そこで豊田社長が注目すべき発言を二つほど行っているからだ。

一つは話題のウーブン・シティについて。もう一つはクルマの電動化に対するトヨタの考え方について。気心の知れ合った者同士のざっくばらんな語り合いの中で、豊田社長はそれぞれに関するかなり重要と思われる事実あるいは本音を漏らしているのである。

ウーブン・シティは
用意周到な事業ではない!?

まずは、東富士工場の跡地に未来のモビリティのためのウーブン・シティをつくる構想についての発言。

実は雑誌の最後の部分で構想イメージが紹介されているのだが、内容が抽象的でつかみにくい。それよりも、この鼎談の中で発せられた言葉の方がその実態をよく表している。以下はそれを大幅に省略した形の引用である(略している箇所は……で表現)。

マツコ 何人住むんでしたっけ?

豊田 住むのは360人ほどの予定ですけど、実際には昼間の人口がもうちょっと増えるんじゃないかな……。

マツコ じゃあ、昼間の人口はもう1000人以上とか?

豊田 それぐらいですね……公用語はたぶん英語……いろんな国の人がここに住んで、誰とでもヒト中心の会話ができる。生活ができる……そこをスタートにしていろんなものをやろうというのがこのプロジェクト……モビリティに関するところのAIとかはいいでしょうけど、自動車だけがAI武装したところで、未来の“ヒト中心の街”は成り立たない。だから自動車産業以外の人たちにも参加いただきたいんです。……

脇坂 ……実験をするのに許可を取る必要がないじゃないですか。そうすると、技術競争で世界をリードできる可能性が高くなる。

マツコ すごい。そこまでの規模で、それだけのことをやってる施設ってほかにある?

豊田 Googleがどこか外国でやっているって話は聞きましたけど、やっぱり“ヒト中心”というのはWoven Cityのこだわりですね……。

マツコ ……ここまでのことを思い切って舵取りするのって、普通怖いよね。

豊田 Woven City計画に関しては、この工場を閉めると決断したときのことがきっかけのひとつになっています……この工場に勤めている人は今度は東北に移動しなきゃいけない。でも、その人たちには家族もここでの生活もあるから、「そんなのできない」という声がたくさん出ていると聞きました。なので、全社員集会をここでやったんですよね。

マツコ 従業員たちの前で?

豊田 はい。それで「今度クローズになる」と私から直接伝えました。そしたら従業員の人から「ここの跡を何にするつもりなんですか?」という質問がありました。そこで、「ここを実証実験の場所にしたい」と。会社では決まってなかったんですよ……ここで働いていた人たちの想いに応えてあげたいという気持ちがWoven Cityを実行に移させたと思うんです。

つまり、ウーブン・シティ構想は、従業員思いの豊田社長の口からポロリとこぼれでた一言で始まった部分が大きく、練りに練ってスタートしたものではなかったということ。理想のモビリティ社会のために早期実現を期待したいところだが、過度な期待は禁物で、じっくりと事の推移を見守るのが良さそうだ。

「全方位のクルマづくり」で
HVの重要性をアピール!?

次に、クルマの電動化に対するトヨタの考え方についての発言。

昨年、政府が2030年代半ばまでにクルマの電動化を達成させるとの方針を発表したとき、豊田社長は自工会の会長として苦言を呈した。だが、それがトヨタの社長としての考えなのかどうなのかがはっきりわからないままだった。ところが、この鼎談においては、トヨタの社長の立場で電動化施策に対する率直な考えを吐露している。
脇坂 ……クルマづくりに関しても、周りのウケだけ考えるなら、EV化って言っておけばいいんです……それでエコに対応していると見られる。でも、火力発電をバンバンやって、それで電気をつくってEVを走らせても、火力発電って二酸化炭素がいっぱい出ますよね。トヨタが今、全方位でクルマをつくられているのはそういう理由だからですよね?

豊田 そうですね……日本って、大体年間400万台ぐらいクルマが売れるんですよ……ガソリン車をゼロにして全部EVにしたらどうなるか……10%か15%ぐらい電力不足になります……じゃあ、10%~15%を補うために電力能力をどのくらい上げればいいんですかっていうと、原発をさらに10基、火力発電だと20基が必要なんです。

マツコ 20基!?

豊田 ……それと充電設備をつくるのに、約30兆円の費用がかかります。

マツコ 30兆円!?

豊田 ……もっと残念なのは、電気自動車をつくると必ず家1軒が1週間で消費する電気の量を充放電しないといけないんです……50万台のEV自動車工場の場合、家庭用なら5000軒ぶんにあたる電気を放出しちゃうわけですよ……それって本当にいいのかなということです。

こんなふうに、トヨタの社長として、EVが主体となるような電動化施策にはっきりと異を唱えている。

ここからは、トヨタが力を入れているFCV(燃料電池車)を忘れては困るとの矜持がうかがえる。あるいは、政府の電動化施策では得意のハイブリッド車も電動車扱いになっているにしても、その重要性をもっと知ってほしいとの願いがヒシヒシと伝わってくる。ひょっとしたら、低燃費で環境にいいガソリン車であれば長く存続させるべきとの考えもあるのかも知れない(その裏にはエネルギー問題のみならず自社の従業員の雇用問題も大きいものとしてあるだろう……)。

日本を代表するメーカーがこういう考えでいるのであれば、この先の日本のクルマの電動化への道は、決して平坦ではないだろうとわかってくる。果たして事はうまく進むのか。トヨタのこの先の開発ならびに販売の動きから目が離せない――。

とにかく、この鼎談、雑誌の中では箸休め的な記事ではあるのだが、ほかのどの記事よりも大きな問題を扱っている。今回ここに引用した豊田社長の発言はほんの一部。豊田社長すなわちトヨタの考えをもっとよく知り、日本の今後の自動車業界のことを深く考るヒントを得たいと思う方は、ぜひ2,420円を支払って全文に目を通してもらいたい。(文:みらいのくるま取材班)



『トヨタイムズ magazine 2020』
・2021年2月25日発売
・編集:トヨタイムズ編集部
・発行:トヨタ自動車
・発売:世界文化社
・価格:2,420円(税込)

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