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諸星陽一氏が語る〈クルマのブラックボックスって何?〉①「EDRが事故時に残すデータは正確な事故原因究明に役立つんです」

2021年3月11日更新



ある日、自動車ジャーナリストの諸星陽一氏からこんな謎のメールが届いた。

〈最近のクルマには事故が起きたときの車両の状態などのデータを残すEDRという装置が付いています。そのEDRのデータをボッシュ社製のCDRという機器を使って読み出して解析すれば、正確な事故原因究明に役立てられるようになります。このこと、ご存じでしたか? ちなみに僕はデータを解析して裁判などの証拠に使えるレポートを書くCDRアナリストの資格を持っています……〉

EDRもCDRもCDRアナリストも初見の単語。メールの文面をじっくり読んでも何が書かれているのかほとんどわからなかった。

そこでインターネットで単語検索をかけてみることに。すると「へえ」と驚くような事実が続々。飛行機のブラックボックスに由来して「クルマのブラックボックス」と言われるEDR、EDRからデータを読み出すCDR、そして読み出したデータを解析するCDRアナリスト……それらは、交通事故の原因究明の精度を大きく高めてくれる装置であり資格であるらしい。

ただ、わかったようで、まだよくはわかっていない。

ということで、急遽諸星氏を招聘。これからの交通社会に必須のものとなるであろうEDRとCDR、そしてCDRアナリストによる事故原因究明のアプローチについてわかりやすくレクチャーしてもらうことにした。

日本での認知は
これから急速に進むのでは

——恥ずかしながら、メールをいただいてはじめてEDRとCDR、CDRアナリストの存在を知りました。

諸星 いや、実を言うと僕も「事故時のデータを記録・保存する装置のEDR」だけは知っていましたが、その他についてはつい最近まで知らなかったんですよ。世界的な自動車部品メーカーであるボッシュが、2019年に日本自動車ジャーナリスト協会の会員を対象にした勉強会に出席して、そこで初めて「EDRからデータを読み出す機器のCDR」「読み出したデータを解析してレポートを書くCDRアナリスト」という存在があり、それらによって交通事故の原因究明を目に見えるデータで行え、裁判などでの有力な証拠として活用できるという事実を知ったんです。その際に「これはおもしろい!」と思ったのがきかっけで、2020年にCDRアナリストの資格を取得しました。

——ということは、新しいものなんですね。

諸星 ええ、実はアメリカでは20年ほど前からクルマへのEDRの搭載が始まり、現在はそのデータ活用が盛んに行われているんですけれど、日本では一般の方はもちろんクルマに携わる仕事をしている方でさえその存在や活用方法についてあまり認知されていません。そういう意味でとても新しい。今、国がクルマにEDRを搭載することとそのデータを事故原因究明のために活用することのルール作りをしようとしているので、今後は急速に知られていくだろうと思いますけどね。

エアバッグ内のEDRは
事故時に数十種のデータを記録

——では、改めて、EDRとCDRおよびCDRアナリストについての基礎的な知識のレクチャーをお願いします。

諸星 はい、まずこれらが存在する大前提からお話しましょう。これまで交通事故の原因究明といえば、調査する人の経験・知見に頼る部分が少なからずありました。しかし、今のクルマはコンピュータで制御されている部品がとても多い。であれば、それらのデータを読み出して的確な解析を行えばより精度の高い原因究明が行えるのではないか……。そうした理想を実現するものが、EDR、CDR、そしてCDRアナリストによる事故原因究明であると言えます。

——なるほど。

諸星 まずEDR、すなわちイベント・データ・レコーダーについてですが……。これは、主にエアバッグのコントロールモジュール内に搭載されている装置です。1対1の事故、あるいは多重事故が起きてエアバッグが開くほどの衝撃が加わると、基本的にそこから数秒間さかのぼって「速度」「ブレーキ操作」「ステアリング操舵角」「衝突の大きさ(Gの大きさ)」「シートベルトの着用状況」「エンジン回転数」「アクセル開度」「シフトポジション」など、最大で60種の情報を時系列で記録するようになっています。ちなみに、エアバッグが開かない場合でも前後突1.5G~1.6G程度、サイド突1.5G~4G程度でそれらの記録がなされるようになっています。

EDRの本体(※ボッシュ社勉強会から諸星陽一氏提供)



——EDRは日本で販売されているすべてのクルマに搭載されているのですか?

諸星 いえ、すべてではないですね。国産車の場合、登録車にはほとんど搭載されているんですけれど、軽自動車は若干遅れています。ただ、国がEDRの搭載を推進していくでしょうし、日産と三菱自動車がすでに軽自動車への搭載を宣言しています。そういった気運からすると、近い将来、すべての乗用車に搭載されるようになるのは間違いないと思います。

ボッシュ製のCDRを使うのは
公正なデータ読み出し&解析のため

諸星 続いてCDRについてですが……。これはクラッシュ・データ・リトリーバルという英語の頭文字を組み合わせたもので、直訳すると「事故時のデータを再現するもの」となります。つまり、EDRに残っている事故時のデータを読み出し、見えるようにする機器です。読み出しには多くの場合、ボッシュ製のCDRが使われます。ただし一部には、ボッシュ製のCDRが対応しないモデルも存在します。

CDR(※ボッシュ社提供)



CDRでの読み出しプロセス(※ボッシュ社提供)



——EDRのデータはボッシュ製のCDRでなければ読み出せないということでしょうか?

諸星 そうとは限りませんが、多くのモデルがボッシュ製のCDRに対応しているので、メジャーであることは事実です。アメリカでは販売されているクルマで、EDRが装着されている車両の90%以上がボッシュ製のCDRで読み出し対応している事実からも、EDRの読み出し機器のデファクトスタンダードと言えるでしょう。

——なるほど。となるとCDRで再現されたデータを解析してレポートを書くCDRアナリストの資格もボッシュが認定することになるわけですね?

諸星 そうです。ボッシュの施設で4日間のシステムトレーニングと、5日間のアナリストトレーニングを受け、それでテストに合格したら資格が取得できます。参考までに受講料を紹介しておくと、税別で前者は40万円、後者は50万円。中身がちゃんとしている分、それなりに費用はかかるということです。

CDRアナリストトレーニングのトレーナー(※ボッシュ社提供)



——どんな人たちがCDRアナリストになっているのですか?

諸星 今のところ、警察関係者、損害保険会社の社員、自動車メーカーの社員、ボッシュカーサービス等の自動車整備工場の社員、自動車ジャーナリストといった主にクルマと交通事故に関連する仕事をしている方が多いようです。僕がトレーニングを受けたときは、一緒のグループに自動車板金工場の方もいらっしゃいました。

諸星陽一氏が語る〈クルマのブラックボックスって何?〉
①「EDRが事故時に残すデータは正確な事故原因究明に役立つんです」
②「今後は日本でも暴走事故の解明に一役買うことになるでしょう」
③「『弁護士費用特約』はCDR活用を後押しする重要要素です」

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