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クルマのトラブル「もしも」マニュアル
2021年2月18日更新
【今回のやっちゃったストーリー】
大阪にある中規模の専門商社に勤めるXくん(23歳)は、会社で経理の仕事をしている二つ年上のA子さんに懸想している。
彫りの深い美顔でスタイル抜群なのはもちろん、姉御肌でストレートな物言いをするところが、マザコン気味のXくんにはたまらない魅力と映っていた。月末の経費の計算を間違えたりしたときには「なあ、Xくん、これくらいのこと、ちゃんとやらなあかんで。私ら経理に余計な仕事、させんといて」などとこっぴどく怒られるのだが、その叱責さえも親密なコミュニケーションの一つのように感じられて心がホワーっとしたものだった。
ある日、ひょんなことからXくんはこのA子さんと話し込む機会を得る。会社の昼休み中に社員同士で愛車の話で盛り上がり、Xくんもつい最近7年ローンで購入したばかりのSUVのことを多少照れ気味に自慢したところ、近くを通りかかったA子さんがそれに食いついてきたのだ。
「あのクルマ、やっぱりええの? じつは私、次のクルマとして狙ってんねん」
Xくんは、A子さんが語りかけてきてくれたことと、同じ趣向をもっていることがうれしくて、チカラを込めて愛車の魅力を語った。それに刺激を受けたA子さんも次々と質問を繰りだし、二人の会話は昼休みが終わってからもしばらく続いた。そして、なんとA子さんは最後にXくんにこんなことまで言ってきた。
「こんどの週末空いてる? できたらドライブを兼ねてXくんのクルマ、試乗させてほしいんやけどなあ。もちろん、ちゃんとお茶ぐらいごちそうするし。どう?」
望外の展開だった。Xくんは勇み足気味に「あ、あ、ぜんぜんOKですわ。ほな、土曜日の昼過ぎ1時半ごろにA子さんのウチの近くまでクルマをもっていきますわ」と勝手に待ち合わせの時間と場所まで決める返事をし、ガッチリとドライブデートの約束を固めたのであった。
その待ちに待った土曜日、朝早くから丹念に身繕いをしていたXくんは正午になったのを確認するや、自分が住んでいるアパートに隣接したところにある駐車場へと意気揚々と向かった。それで約10メートル離れたところからピッとキーレスエントリーでカギを開け、さあ乗り込むぞ、となったわけだったが……クルマのフロントのある異変に気づき、足が急に止まった。
「あれ、あれれれれ? ナンバープレート、ないやん!」
胸が激しく鼓動を打ち、冷や汗が滝のように出てきた。慌てて後ろに回り込むとリアのナンバープレートもなくなっていた。
「も、もしかして、噂のナンバープレート盗難ってやつかいな?」
そう、まだクルマを持っていなかった時期に友人が「大阪ではナンバープレートの盗難がめっちゃあるらしいで。盗んだあと、盗難車を運ぶときや違法薬物の密売とかを行うときのクルマにそのナンバープレートを付けて捜査の網をかいくぐるらしいんやわ」という話をしていた。そのときは「ああ、なんかミステリー小説のネタみたいな話やな」などと他人ごとのように興味深く聞いていたのだが、まさか自分がその当事者になろうとは……。
Xくん、取り急ぎ警察に連絡して現場検証にきてもらった。そのとき既に「約束の時間には間に合わへんかも」と思いはじめていたのだが、警官から「一応言っとくけど、ナンバープレートがないままやと公道は運転でけへんからね」との注意がなされた瞬間、ドライブデートは完全に諦めるしかないことを悟った。
と言うわけでXくん、断腸の思いでA子さんに電話をかけて事情を話し、今日は行けない旨を伝えた。するとA子さんは「ああ、それは災難やったね。うん、ウチは大丈夫やで。まあ、試乗は近所のディーラーとかでもできるしな……」と、やさしい感じで言ってくれた。
が、電話を切り間際に付け加えられた一言は、いつものA子さんらしさ全開の内容となっていた。
「でもな、Xくん、今はちゃんとナンバープレートのネジを盗難防止ネジに付け替えるのがフツーなんやで。あんた、そういう肝心なところを締めるネジが、いっつもゆるいねん。ほんま、気いつけや(プチッっと電話が切れる)」
ガビーン!
いつもはうれしい叱責も、今回ばかりはさすがにきつく感じられた。Xくんの目にはうっすら涙が浮かんでいた。もう、いろんな意味で「嗚呼……」な状況なのであった。
ナンバープレートの盗難は
部品盗難の約50%を占める
警察庁が2020年3月に発表した資料によると、自動車盗難の件数は2003年(認知件数6万4,223件)をピークに減少傾向にあり、2019年は7,143件とのことです。また、クルマの部品の盗難の件数もだんだんと減ってきているようです。
やはり、街中に監視カメラが増えたことや、多くのクルマがイモビライザーやドライブレコーダーを普通に装着するようになったことがこうした結果を招いているのでしょう。
ただ、だからといってクルマを取り巻く社会が健全化したと断ずるのは尚早かも知れません。なぜなら、自動車部品の盗難が総数として減っている中においてナンバープレートの盗難件数は減少傾向が鈍く、その割合は年々増加傾向を示しているからです。ちなみに、自動車部品全体の盗難は2007年の認知件数が7万8,016件だったのに対して2019年は1万6,585件となっていますが、この内ナンバープレートの盗難認知件数は2007年2万5,569件に対して2019年8,267件。2019年の部品盗難におけるナンバープレート盗難の割合はなんと49.8%にものぼっています。これは相当に由々しき事態といえるでしょう。
残念なことに、ナンバープレートのネジも封印もドライバー1本で簡単にはずせます。そしてその行為は当然ながらイモビライザーでは防げません。よしんばドライブレコーダーが犯行中の映像を記録していたとしても、犯人が覆面をしていたり、クルマの陰に隠れて犯行を行っていたりすれば、誰がやったかを特定するのは困難となります。悪いことをたくらむ連中にとって、ナンバープレートはけっこう易々と盗み出せるものなのです。
ナンバープレートを盗むワケは、単なるいたずら目的もありますが、Xくんの友人が言っていたとおりの悪用目的も少なからずあります。すなわち「盗難車を運ぶなど違法行為をを行うときのクルマにそのナンバープレートを付けて捜査の網をかいくぐる」ために使われることがあったりするのです。
ナンバープレートを盗まれることで、Xくんのようにドライブデートが御破算になるどころでなく、かなりダークな二次的犯罪に使われてしまう……。これはやはり何としてでも防ぐ必要があるといえます。
なお、ナンバープレートの盗難件数は都市部に多く、中でもXくんの住む大阪府はここのところ連続でダントツ1位という不名誉な記録を残しています。
こうした実態を受けて、大阪府警をはじめとする都市部の警察は、ナンバープレート盗難防止を呼びかける活動を行っています。
ナンバープレートが盗まれてもうて、せっかくのドライブデートに行かれへん!(前編)
ナンバープレートが盗まれてもうて、せっかくのドライブデートに行かれへん!(後編)
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