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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2020年8月25日更新
疾風のようなホールショット
全日本EVグランプリシリーズ第4戦の決勝レースが始まる午後3時過ぎ。気温は36℃に上昇し、湿度は80%を優に超えていた。
真夏の27周55㎞のレースにおいて、空力性能を損なわないためにウインドウを閉め切り、バッテリーを熱さないようエアコンをOFFにして走るドライバーたちが、厳しい状況に追い込まれるだろうことは容易に想像ができた。
だが、観る者にとって、その爆音と油臭さがないスタートシーンは実に爽快なものと映った。
レッドシグナルが消滅した瞬間、グリッドに鎮座していた9台のマシンがシューっと急発進。特にフロントグリッドの2台のテスラモデル3の加速は凄まじく、ノーマル車で0-100m/h加速の最高タイム3.4秒の実力どおり、あっというまに第一コーナーへと姿を消していった。それはまるで暑気を切り裂く疾風のように涼やかな走りだったのである。
「ほう」。コロナ禍の影響で極端に少ない観客の一人から漏れ出た溜め息がはっきりと耳に届く。ホールショットを獲得したのは、ゼッケン1番の黒いテスラモデル3を駆る地頭所光選手だった。
昨年のチャンピオンマシンより
1周5秒も速いモデル3の実力
レース序盤から中盤まで、首位のゼッケン1番と2位につけたゼッケン33番のテスラモデル3はつかず離れずの接戦を繰り広げた。
当初、バッテリーが熱するのを避けるためにスタートダッシュの後はペースを落としてのトップ争いになるのかと思っていたのだが、さにあらず。筑波サーキットの短いストレートで200㎞/hオーバーの走りを何度も続けるなど、どちらのマシンも想像以上にアグレッシブな走りを見せてくれた。
とにかく両マシンの速さは圧倒的で、11周目には3位以下のマシンすべてを周回遅れにするほどだった。パスしたマシンの中には昨シーズンのチャンピオンマシンであるテスラモデルSも含まれていた。
そういえばレース前、地頭所光選手はこんなことを言っていた。
「去年まで僕が乗っていたモデルSは、筑波の予選では1分8秒を出すのが限界だった。ところが、モデル3は走行性能がとくかく優れていて1分3秒がポンとでる。フツーに5秒も速い。これは決勝でもかなり効いてきます」
「あと、テスラモデル3のフロントパネルに付いている15インチのディスプレイにはバッテリーの温度を色で報せてくれる機能があって、それも強さの要因の一つになっています。レース中にこれを見て、グリーンなら温度は問題ないからアクセル全開OKで、赤だと限界温度が近いからペースダウンの必要があるとの的確な判断ができるんです。これまでそういう熱マネジメントはすべてドライバーの感覚や経験に基づいてやっていたんですけど、その負担が軽減されるというのはやはり相当に大きいなメリットだといえますよね」
全日本EVグランプリシリーズの闘いは、今シーズンからのテスラモデル3の本格参戦によって異次元のレベルへと移行していたのである。
小っちゃな手作りEVのワクワク劇場
そんなテスラモデル3独壇場のなか、「おっ」と思わせたのはゼッケン28番のコンバートEVであるミラの奮闘だ。
5位からスタートしたミラは、なんと6周目で3位に浮上。終盤までずうっとそのポジションをキープし、表彰台を射程圏内に捉えていたのである。
レース前、チームの代表が「小っちゃいボディに135kWのモーターを積んでいるので200馬力ぐらいのクルマになっている。だからコーナーはともかく、ストレートはけっこう速い。優勝だって狙えます(笑)」と言っていたし、JEVRAの富沢事務局長も「大穴」と評してはいたので、ある程度の健闘は予想していたが、まさか手作り感いっぱいの軽のコンバートEVが最新のモデル3に続くほどの強さを見せるとは思ってもいなかった。
いやはや、EVレースは奥が深い。
残念なことに、このミラ、20周目を終える寸前の最終コーナーで、決勝レース前に行われていた二輪レースでまかれたオイルとデブリに乗り上げてスピンアウトし、あっけなくリタイアとなってしまった。セーフティゾーンに乗り上げた際にあげた砂煙とともに、表彰台への夢を虚しくも宙に散らせたのであった。
痛快な下克上劇の完成を期待していたこちら側としても、それはガッカリの結末だった。だが、2台のテスラモデル3の強さばかりが際立つレース展開の中で、かなりワクワクさせられたのは事実。そういう一瞬のロマンを垣間見せてくれたことへの感謝の思いはやまず、次戦以降の活躍を強く願う気持ちがドーッと湧き出てきたことをここに明記しておきたい。
ガンバレ、小っちゃい手作りEV!
優勝したモデル3の勝因は
ウォシュレットのポンプ!?
レースは結局、黒と白の2台のテスラモデル3が主役のままフィニッシュとなった。
総合1位のチェッカーフラッグを受けたのは、ポールポジションから滑らかな走りを続けて一度も首位を明けわたさなかった地頭所光選手のモデル3。終盤まで接戦だったものの、「最後の2周はあまりの暑さで禁断のエアコンをつけてしまった(笑)」というほどの余裕をもっての勝利。これで地頭所選手は開幕から4連勝ということになった。
11秒差の総合2位で終わったTAKAさん選手も首位に立つチャンスがあるにはあったが、「終盤までずうっと後ろについて、さあ、ここからというときにアクセルをグッと踏んだら、途端にディスプレイのバッテリー温度の表示が赤になってスピードがでなくなった」と嘆いているように、やはりバッテリーの温度の調整如何が敗因となったようだ。
TAKAさん選手のマシンのバッテリー冷却がノーマルのままなのか、それとも何か特別な工夫を施しているのかはわからなかった。だが、地頭所選手のマシンの助手席の足下にはラジエーターにドライアイスで冷やした水を吹きかける「TAISANポンプ」なる装置が載っており、それがTAKAさん選手のマシンの冷却装置よりも効いたのは間違いなさそうだった
ちなみに、このポンプ、トイレのウォシュレットの機械を援用して作ったものなんだとか。写真のとおりモダンなモデル3の室内には似つかわしくない無骨なムードを醸しているわけだが、これこそがあくなき勝利への執念のカタチなのである。
リーフe+同士の3位争いの結着は?
テスラモデル3勢に続き総合3位に入ったのはゼッケン88番のリーフe+を駆っていたレーサー鹿島選手だった。
レーサー鹿島選手は、クラスが上であり昨年のチャンピオンマシンでもあるテスラモデルSよりも上位になれたことと、同じリーフe+を駆って出場していた自動車ジャーナリストの国沢光宏選手(ゼッケン7番)との終盤での3位争いに勝てたことに大きな歓びを感じていた。
「日産のリーフe+は補助金も入れれば一般の方でもムリなく買えるクルマ。それをベースとしたマシンが、高価でパワーの大きなテスラモデルSに勝てたというのは、走らせる方にとっても、観る人にとっても、それなりに意義があることのように思います」
「国沢さんに勝てたことについては……去年、国沢さんはe+をいちはやくレースに投入していい成績を残していたので、その先達に勝つことが僕らの一つの目標だった。今回、実際に勝ててみて思うのは、やはり同じクラスの同じマシンで勝つというのは格別に嬉しいことなんだな、ということ。東洋電産のチームがしっかりクルマをアップデートしてくれたお陰です」
実はレーサー鹿島選手はラジオパーソナリティでありマルチプロデューサーでもあるのだが、国内外の数々のレースに出場してきたキャリアがあり、腕はかなりのもの。その上でマシンを冷やすためのラジエーターを付けるなどのスペシャルな工夫を施したとなれば、それはやっぱり相当に強いわけなのである。
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