画像提供:JEVRA(以下同様)
JEVRAの全日本電気自動車グランプリシリーズは今年11年目を迎える。今後、世界的にEVが続々と登場すると言われており、それはEVレースには追い風となるだろう。つまり、EVレースはこれからが本番だ。
今年は予期せぬ新型コロナウイルス渦の影響で、開催スケジュールは何度も変更を余儀なくされたが、5月30日(日)に第1戦(公式予選・決勝50㎞レース)が千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催される運びとなっている。
ということで、いよいよ本題。EVレースを観て楽しむ、そして出て楽しむには、どうすればよいのだろうか?
予備知識があればF1より面白いかも
マシンの爆音がない、油の燃える臭いもない。そして、勝つためにはパワーに頼るだけではダメで、駆動系の熱マネジメントも不可欠――。
「クリーンでクレバー」がEVレースの特徴。まさに新しい時代のレースといった感じなわけだが、われわれは、これまでのエンジン車によるレースと同様、観て楽しく感じることはできるのだろうか?
JEVRAの事務局長・富沢久哉氏は、その素朴なギモンに対し、いきなりこんな否定的な回答をしてきた。
「エンジン車のレースとは趣きが大きく異なっているので、何の予備知識もないまま観にきたら、あまり面白くは感じられないかも知れませんね」
EVレースでは、スタート以外で急加速するシーンが少ないため、物足りなさを感じる可能性がある。それに、例えレースの終盤戦にパワーの小さい車両が逆転優勝するという劇的な下克上ドラマが起こっても、それは先行車になんらかのマシントラブルがあった結果と勘違いすることだってあり得る。本当は、それらすべてに冷却技術の進化の具合や、ドライバーのクレバーな熱マネジメントの優劣といった奥深いものが関わっているのに、そのことを知らなければ「みんな『なあんだ』と思ってしまう」と富沢氏は言うのだ。
「ただ、予備知識があって観戦するのであれば話は別。もしかすると、エンジン車のレースより楽しいと感じることも十分にあるでしょう。だってほら、F1のレースって、いいマシンに乗ったいいドライバーが一度トップに立つと、そのままゴールしてしまうじゃないですか。ひどいときにはたった5分で結果がわかってしまう(笑)。でも、われわれのEVレースって、熱の関係で最後の最後までどうなるかわからない。これは、けっこう興奮できます」
現在、JEVRAの全日本電気自動車グランプリシリーズの各レースの観衆は、大きなレースイベントでの同時開催時以外では多いときでも1000人~2000人程度。だが、その中には、徐々にではあるがEVレース観戦の勘所を押さえた観衆が増えてきている。彼らは新しいレースの楽しみ方を誰よりも早く見つけたために、嬉々として観戦しているという。
「この記事を読んだことで、読者の皆さんはすでにEVレースに関する予備知識は付いているはず。だから、初めて全日本電気自動車グランプリシリーズのレースを観戦したとしても、ある程度は楽しめることでしょう。大きなレースイベントでの同時開催時以外の入場料は基本的に無料なので、ぜひ、気軽にサーキットまで足を運んでみてほしいですね」
これは余談だが、全日本電気自動車グランプリシリーズの各レースの観客席には、ときどき自動車メーカーのEV開発者などが私服姿で紛れ込んでいるとか。彼らは自社ないしは他社のEVの限界走行のポテンシャルのほどが気になって仕方がなく、それを隠密でチェックしているらしい。
「業界は広いようで狭いですから、身元はすぐにわかります。もう、そんなに気になるんだったら、メーカーさんが正式にチームとして参戦し、堂々と性能競争してくれればいいのにって思いますよ(笑)」
現役の東大生ドライバーが3連覇!?
EVレース観戦には予備知識が大事ということを前提にしつつ、富沢氏に今年の2020全日本電気自動車グランプリシリーズの見どころを聞いた。
チームとマシンに焦点を絞った見どころとしては、EVレースに特化したレース活動を行っているレーシングチームのチーム・タイサンのテスラモデル3&モデルS&ロードスター(EV-1)と、急速充電器メーカーである東洋電産のチームの日産リーフe+(EV-2)による上位争いが挙げられる。
これまで紹介してきたとおり、圧倒的なパワーのテスラ車が逃げ切るか、それとも冷却がうまくいっているであろうリーフe+が逆転勝利するかが観戦の興味深いポイントとなる。
それに準じて、それぞれのチームのドライバーの対決からも目が離せない。
チーム・タイサンでは、現役の東大生である地頭所光と日大生の木村龍祐というクレバーな若き才能がドライバーを務め、方や東洋電産のチームでは、レーサー鹿島というかつてインディカーの直下のカテゴリーのレースであるインディ・ライツで優勝したことがある実力派のラジオパーソナリティがドライバーを務めることになっている。
実は今シリーズ、地頭所選手の3連覇がかかっているのだが、同じチームの木村選手(昨年総合2位)がそれに取って代わるか、あるいは下克上でレーサー鹿島選手がそれを阻むかが注目される。
2019年の日本EVフェスティバルに参加した地頭所選手(向かって右)と木村選手
その3選手だけでなく、チーム・タイサンの千葉栄二選手、テスラモデル3で初参戦のTAKAさん、リーフe+の金子高志選手なども活躍が大いに期待される。
2020全日本電気自動車グランプリシリーズの見どころは、まだある。最新の市販EVの参戦が、予想を超える新たな興奮を生むかも知れないのだ。
「昨年の最終戦に、個人の方がテスラの新しいクルマであるモデル3で参戦してデビューウィンを飾っています。ですから、今年は、実績のあるテスラのモデルSとロードスター、日産のリーフe+の三つ巴だけでなく、新しくテスラモデル3が加わって接戦が繰り広げられることでしょう」
そして、「あくまで希望的観測ですが」と断りを入れつつ富沢氏は言葉を続ける。
「秋ごろにはポルシェの初のEVであるタイカンが発売されます。そうなると、最終戦あたりに自動車ジャーナリストのドライバー諸氏が日本法人からそれを借りてきて参戦することがあるかも知れない。ポルシェは最高のスポーツカーをつくるメーカーとしての矜持があるから、パワフルなのはもちろん、課題の冷却も相当にやってくるはず。もし参戦したら、レースはさらに刺激的な展開になるでしょうね」
今年後半から来年にかけて日本市場に新しく投入されるであろうEVは、なにもポルシェのタイカンだけではない。BMWのi4、アウディのeトロン、フォルクスワーゲンのID.3、ホンダのホンダeなどなど、片手では数えきれないほどたくさんの量産型の新型EVが登場してくる。それらがすべて全日本電気自動車グランプリシリーズに参戦するかどうかは定かではないが、近い将来、その何割かはきっと参戦してくるに違いない。そうなったら、レースは絢爛そのもの。観戦は今以上に楽しくなることだろう。しかも、そのときにもしEVの購入を検討しているとしたら、限界走行するレースでそれぞれのクルマの真の実力がわかり、適切な選択ができるというオマケまで付いてくる……。
「そういう意味では、本当の見どきは来年以降なのかも知れません。でも、だからこそというべきか、私は、まず今年の観戦で目を肥やしていただき、その上で来年の観戦に臨まれることをオススメしたいですね、はい(笑)。また、もしサーキットで観戦できないのであれば、そのときは、われわれがブリヂストンさんの協賛でYouTube上に『JEVRA.JP』の名でアップしている映像でレースの模様をご覧いただければと思います」
個人のスポット参戦も大歓迎
最後に、全日本電気自動車グランプリシリーズに出場・参戦する方法についても富沢氏から話を聞いた。
普通、自動車レースに出場するとなると、ドライバーには競技用ライセンスが必要である。だが、全日本電気自動車グランプリシリーズはJAFの管轄で行われるレースではないので、ライセンスがなくても参戦できるとのことだ。
全日本電気自動車グランプリシリーズに出場・参戦するための条件は、18歳以上で運転免許証を持っていて、JEVRAのホームページ(https://jevra.jp)にアップされている競技規則を理解・遵守できること。また、レースフラッグの意味を正しく理解し、これに従えること。これだけだ。
その上で、やはりホームページ上にある参加申込書・誓約書・車両申告書を必要事項を記入して送り、エントリーフィー(最も金額の少ないECOエントリーは1レースに付き税別5万円)、保険料(ドライバー1名1口1,000円/ピットクルー1名1口500円)、充電費(税別1万円:希望者のみ)を支払えば、出場が可能となる。
しかも、シリーズ制のレースだからといって、すべてのレースに参戦しなければならないわけでもない。1戦だけのスポット参戦でもOKだという。
「例えば、あるロータス店さんがチームを組んで、ある一つのレースだけに出場いただくということもできます。もう、EVでのサーキット走行って本当に気持ちいいですよ。それに、われわれのレースにはかつてF1レーサーだった有名なドライバーも走ることが多いので、彼らといっしょに同じコースを走れるという希有な体験までできる。勝ち負けより、そういう楽しさを求めるということでもいいので、『やってみたい』という方はぜひ参戦してほしいですね」
こう軽やかかつにこやかに広い参加を呼びかける富沢氏だったが、話し終える間際に「ただし、一つだけ留意してもらいたいことがある」と、以下のことをキリリとした口調で付け加えた。
「市販EV主体のレースということもあるのですが、われわれは安全性をかなり重視していて、例えば世界ツーリングカー選手権みたいな接触がある激しいバトルは厳に禁止としています。レース前に行うブリーフィングでも、私自身が『後ろからの車両がインを差してきたら、閉めることはせず、必ず譲るべし』と口を酸っぱくして言っています。ですから、参加するにあたっては、どうか事前に『接触するようなバトルは絶対にしないぞ』と心に固く誓っておいていただきたい。ご安心ください、それでも十二分にスリリングなレースが楽しめますから」
全日本電気自動車グランプリシリーズは、クリーンでクレバーで奥深い楽しみがある新しい時代のレース。新型コロナウイルス渦が去った暁には、「来たれ、目の肥えた観衆、そして進化したEVと紳士的なドライバーたちよ!」なのである。(文:みらいのくるま取材班)
※2020全日本電気自動車グランプリシリーズのレース開催については、新型コロナウイルス感染防止の観点から無観客開催や開催延期・期日変更などの措置が取られる場合があります。詳しくはJEVRA公式ホームページでの告知をご確認ください。
世界に先駆けてはじまった全日本電気自動車グランプリシリーズ!
ウサギかカメか。市販EVは限界競争の中で進化してゆく!
パワーだけでは語れない奥深いレースの魅力を感じとってほしい!