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2020年2月6日更新
自動運転車や電動車といった次世代車づくりのための技術展『第12回オートモーティブワールド』が、2020年1月15日~17日、東京ビッグサイト(青海会場を含む)を舞台に開催された。
今回も前回同様、〈コネクティッド・カー EXPO〉〈自動運転EXPO〉〈EV・HEV駆動システム技術展〉〈カーエレクトロニクス技術展〉〈クルマの軽量化技術展〉〈自動車部品&加工EXPO〉といった計六つの展示エリアが設定され、それぞれにおいて部品メーカーをはじめとする大小さまざまな企業が先端技術を披露していた。
多様な展示がされていた中で、今回、われわれは数は少ないながらもMaaSに関する展示やセミナーを集中的に取材した。MaaSの実現は、次世代車とはまた違った意味でクルマ社会に大きな変革をもたらすと言われているので、その現在地ならびに行方が知りたかった。
10年後には数億人がMaaSを利用!?
MaaS(Mobility as a Service)はフィンランド発祥の新しい交通サービスの概念(形態)だ。ごくごく簡単に言うと「市民がスマートフォンのアプリを使って出発地から目的地までのバス、タクシー、電車、シェアリングなどの複数の交通手段を一括して利用できるサブスクリプション=月極定額の交通サービス」となる。
その主な目的は、シームレスで便利な公共交通による移動を可能にすることで自家用車利用の頻度を減らし、交通渋滞や環境汚染を少なくしていくこと。現在、すでにフィンラドのヘルシンキをはじめとする欧州の各都市で運用が実現しており、実際、目論見どおりの効果が出ているらしい。
このMaaS、実は日本でも2019年から国土交通省や経済産業省による導入検討・実証実験が始まっている。渋滞緩和や環境負荷低減はもちろん、地方における高齢者の交通手段の確保や、移動先でのさまざまなサービスの利便性を高める効果があることから、なるべく早期の導入を目指している。
こうしたMaaSの導入・実現は、確かに便利で意義があるように思える。しかし、今まで慣れ親しんできた自家用車中心の交通文化(=愛車文化)が霧散してしまう可能性が少なくないのも事実で、いつごろ本格化するかがとても気になる。
国土交通省などはその時期や規模についての目標を明らかにしていないが、民間企業などはけっこう早くMaaS化が進むとの予測を立てている。今回の『オートモーティブワールド』でも、MaaS利用はあと10年ぐらいで数億人(回)レベルに達するのではないかとの予測をパネル展示している企業があった。
はたして、本当にそれほど急なスピードで日本はMaaS化するのだろうか?
今回の『オートモーティブワールド』で同時開催されていたセミナーでは、フィンランドのサンポ・ヒータネン氏(MaaS Global Ltd.創業者・CEO)が講演を行い、日本におけるMaaS実現の可能性の大きさについて触れている。それに耳を傾けてみることにしよう。
もうすぐ愛車文化の創造的破壊が起こる
サンポ・ヒータネン氏は、Maasコンセプトの提唱者の一人であり、世界初のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」の開発者でもあることから、世界中の交通関係者から“MaaSの父”と呼ばれている。この日、1月15日に氏が行った講演は「クルマの所有権の終わり」という刺激的なタイトルだった。
以下は、その講演での同時通訳を介した氏の発言を聞き書きした中からの注目すべきポイントである(主旨に沿った補足・加筆・再構成あり)。
「これまでヒトはなぜクルマ(愛車)を欲しがってきたのか。それはクルマが自由に移動できる便利さと歓びをもたらすものとしてあったからだ」
「しかし、今、MaaSが自由な移動を約束する存在となりつつある」
「実際、(フィンランドのヘルシンキなどでは)多くの人がWhimのアプリを使って行うバス、電車、タクシー、カーシェア、ライドシェア、自転車などの公共交通機関による自由な移動を享受し始めている」
「中には、これまで自分のクルマによる移動が大好きだったのに、そのクルマを手放す人たちも出てきている。彼らは『Whimによる移動には優れた便利さとメリットがあり、クルマよりも自分たちの暮らしの味方になってくれることがよくわかったからクルマを手放した』と語っている」
「彼らの言う『自分たちの暮らしの味方』とは、統合された各種交通機関によるスムースな移動のことに加え、Whimのサブスクリプション=月極料金がクルマの購入(所有)よりもリーズナブルなことや、排ガスや渋滞を軽減する効果があることなどを指している」
「これらMaaSによってもたらされるさまざまな歓びは、クルマのオーナーシップの創造的破壊を引き起こすことになるのである」
「日本においては、『日本人はクルマを所有したがる傾向が強いので、MaaSの普及はそうカンタンではないだろう』との見方があるようだ」
「だが、それは違うと思う。なぜなら、MaaSの歓びを身をもって知れば、誰でもクルマの所有欲を鎮めるに至るからだ」
「しかも、日本はMaaSを実現させやすい絶好の環境となっている」
「ヨーロッパでは地域ごとにさまざまなローミングサブスクリプションがあり、MaaSを導入するためにはそれらを掛けあわせて統合していくという煩雑な作業が必要だが、日本は島国なので、ただ一つのタイプのローミングサブスクリプションがあれば事足りる(複数のMaaSアプリ=プラットフォームがあっても、ローミングサブスクリプションは一つのタイプで事足りる)。これは、その方向に動きさえすれば、MaaSがすぐに実現できることを意味している」
「人々の暮らしに多くのメリットをもたらすモビリティの実現のために、日本もぜひMaaS導入を積極的に進めていってほしい」
「なお、現在、アラブ首長国連邦のアブダビではフェラーリが何百台も走っているが、日本ではわずかしか走っていない事実がある。しかし、MaaSを導入すると、それとはまったく違う風景が見られるようになる可能性がある(参考:氏は過去に「カーシェアの利用などにより、誰でもフェラーリを運転できるようになる可能性がでてくる」といった主旨のことを発言している)。MaaSの魅力をそうした面でも追求し、アピールしていくことも大切だ」
「いずれにせよ、MaaSを導入する日本のモビリティには明るい未来が待っていると私は信じてやまない」――
いつとは言えないものの、MaaSが意外に早く日本に根付き、愛車文化に代わる新しい交通文化を創り出していく可能性は否定できなさそうだ。今から、その変革に対応する準備をしておいた方がいいかも知れない。(後編に続く)
『第12回オートモーティブワールド』ルポ
(前編)「島国・日本はMaaSが実現しやすい環境になっている」
(後編)「MaaSは便利な移動アプリとして日常に浸透していく」
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