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みらいのくるまの「ただいまのところ」情報
2019年12月5日更新
他の地域の販売店が驚くようなi-MiEVの販売実績を達成した新城さん。けれども、この10年の国内マーケットで、 i-MiEVは「ヒット」と呼べる勢いを見せることはできなかった。それはなぜなのか、率直な考えを伺った。
ヒットしなかったのは……
——i-MiEVの、この10年の国内累計販売台数はわずか1万1,500台ほど(2019年7月時点)に留まっており、ヒット車とはなっていません。これについて、どう思われますか?
新城 世界初の量産型EVとして注目されたわりに当初から販売は低調でしたよね。ただ、個人的にはヒットしない商品とは思っていないんです。現に宮古島ではi-MiEVがたくさん走っていますから。
——先ほど車両本体価格が高かったことがお客さまの気持ちを引かせたとの話がありましたが、それ以外でなにかヒットしなかった要因として考えられることはありますか?
新城 ええっとですね……、ヒットしなかった要因はi-MiEV自体ではなくて、販売する側にあったんじゃないかと見ています。i-MiEVすなわちEVを売っていこうという真剣度が足りなかったんじゃないでしょうか。メーカーはがんばって売ろうとしていたと思います。ですけど、販売の最前線では、メーカー系のディーラーでさえ、この世界初の商品に手をこまねいていた節がありました。
——どうして、そんなことになったんでしょう?
新城 要はガソリンエンジン車を売る方がラクだからだと思います。EVというまったく新しいジャンルのクルマを販売していくには、新しいことを勉強しなければいけないし、今までとは違った手続きを踏んだり、お客さまに対しての説明も変えなくてはいけません。つまり、面倒くさいわけです。そんなことをしてEVをやっと1台売るんだったら、今まで通りのやり方でガソリンエンジン車を数台売る方がラクだし、儲かるという考え方です。
——販売の最前線にとってi-MiEVは魅力的なクルマではなかったということですか?
新城 そうです。もっと突き詰めれば、i-MiEVを販売することに夢を感じて、「これは売らなけりゃだめだ」と決断した経営者がほとんどいなかったということです。経営者に、販売するとか、ヒットさせるというイメージがなかったわけですから、販売を担う営業担当者にも熱意や努力などは生じなかったということでしょう。
僕からすると、みすみす新しいビジネスのチャンスを逃して、なんとももったいない話だなあって感じがするんですけどね。
EVを売る体制の整備は不可欠
——三菱自動車と提携しているロータス店の場合はどうなんでしょう。 やはり同様の傾向があったと見ていますか?
新城 残念ながら、少し前まではそうだったといわざるを得ません。いまでこそ多くのお店が「次世代自動車取扱認定店」となり、EV、PHEV、ハイブリッド車が扱える体制を整えて、電動車志向のお客さまにアピールするようにしていますけど、そういうのをもっと早くからやっておくべきでした。
——新城さんのお店では、「次世代自動車取扱認定店」の制度ができる前から、人材面でも設備面でもEV対応ができるようにされていたんですよね。
新城 まあ、i-MiEVというEVの登場によって、新しい有望なビジネスがはじまるという確たるイメージが持ててましたからね。
だから、営業面は僕が推進しましたけれど、サービス部門については販売を決断した次の段階で手を打って、まず能力の高い整備士を選抜し、メーカーに数ヶ月預かってもらってEVの研修を積ませてもらいました。
設備面では、整備工場をEV対応できるようにした上で、別途ショールームとして太陽光発電による蓄電システムを有する次世代型店舗を構えました。
さらに言えば、ウチには累計300台以上のEVを扱ってきた整備記録がしっかり蓄積されています。これが、バッテリーなどの部品の保証の背景となり、メーカーとの交渉においても大いに役立っています。
クルマ自体の魅力のアピールに加え、こうしたバックボーンをしっかりさせると、お客さまも安心してEVに乗り替えようという気になってくださるんですよね。
——これからEVをはじめとした電動車時代が本格化すると見られていますが、早くからそうした体制を整えたきたメリットは大きいですね。
新城 余裕綽々というほどではないにしても、アドバンテージはけっこうあると思っています。人材、設備の充実に加えて、これまで販売、整備してきたキャリアとデータが豊富なので、どんなトラブルにもちゃんと対応できる自信があるんです。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、お客さまがEVに乗り換えるとき、一番重要なことは「この店は信頼できるかどうか」ということです。10年前、i-MiEVに出会い、大きく舵を切って本当に良かったですよ。
電動車の給電能力に注目
——2020年以降、各メーカーからEVやPHEVなどの電動車が次々と登場する機運です。新城さんは、それら新しい電動車のどういうところに注目したいと考えていますか?
新城 僕としては新しい電動車について、クルマとしての価値に、蓄電池の価値をプラスして考えることが重要だと考えています。大きな蓄電池を積んだ電動車は航続距離を伸ばすだけでなく、“動く蓄電池”としての価値を発揮することができます。
例えば、V2H(Vehicle to Home)すなわち家庭への日常的な給電にどれだけしっかりと使えるのか、あるいは災害による停電時には緊急電源としてどれだけ安心して使えるかも重要なチェックポイントになると思っているんです。
——なるほど。そういえば最近、三菱自動車も「電動 DRIVE HOUSE」というV2Hシステムの販売をはじめていますね。
新城 はい、いまは電動車の給電能力はお客さまにとっても大きなメリットになりつつあるということです。既に僕らも、これまで売電目的でソーラーパネルを設置されてきたご家庭に、そうしたV2Hシステムの導入を提案したりしています。「これからは太陽光の電気を売るのではなく、自分たちで安く便利に使いましょうよ」といった具合に。まあ、現行のi-MiEVでは難しい話なのですが、アウトランダーPHEVやリーフだったら、それが十分に可能ですからね。今後、給電能力を高めた新しい電動車がたくさん出てくれば、そういった総合的な提案やビジネスがどんどん加速していくと見ています。
——なるほど、わかりました。貴重なお話をどうもありがとうございました。では、最後になりましたが、i-MiEV発売10周年を振り返って、なにか一言お願いします。
新城 100年に一度の変革期の先駆けとなったi-MiEVは、途中からクルマ業界に入ってきた僕にいろんなチャンスをくれました。逆から言うと、業界のド素人でもやる気とアイデアさえあればビジネスを描くことのできる、可能性とポテンシャルのあるクルマでした。このi-MiEVがなかったら、たぶん僕はこの自動車販売と整備の仕事を楽しくやり続けていなかったことでしょう。
なので、(i-MiEVが)まだまだ現役車として走り続けるにしろ、とりあえず「この10年間、どうもありがとうございました」と言いたい気持ちでいっぱいです。
【i-MiEVの10年 / 販売店社長の目線 前編】
「10年間に累計300台以上のEVやPHEVを販売してきた」(新城浩司さん)
「販売する側にi-MiEVを売っていこうという真剣度が足りなかった」(新城浩司さん)
新城浩司(しんじょうこうじ)
1980年、沖縄県宮古島市生まれ。美容学校卒業後、東京でファッション業界などの仕事に従事。2008年にUターンし、父・新城浩吉氏(現会長)が経営するロータス東和オートに入社。2009年のi-MiEV発売に触発されて三菱自動車などのEV・PHEV・PHVの販売・整備に注力。以降、大手自動車、電機メーカー、大学と共に共同研究や実証事業を重ね、斬新なアイデアを駆使しながら宮古島をEVアイランドにすべく奮闘を続けている。現在、代表取締役社長として自社を経営するに加え、全日本ロータス同友会本部経営研究室研究員 兼 同友指導講師(電気自動車関連) 兼 九州ブロック総合戦略企画室副室長も務めている。
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