東京モーターショーでは、自動車メーカーだけでなく部品メーカーも展示を行っているが、今回は、やはり電動車をはじめとする次世代車を意識して開発した製品の展示が多かった。
ロータスクラブと提携しているタイヤメーカーのヨコハマタイヤ(横浜ゴム)とブリヂストンタイヤも同様で、とくにCASE(Connected=ネットワークに常時つながるクルマ、Autonomous=自動運転、Shared&Service=シェアリング&サービス、Electric=電動化)に対応するコンセプトタイヤの展示が際立っていた。
ヨコハマタイヤは
タイヤ内部にCASE対応を潜ませた
ヨコハマタイヤのブースには、CASEに対応するコンセプトタイヤのとして『YOKOHAMA Intelligent Tire Concept』が展示されていた。
これはConnectedすなわちネットワークに常時つながるタイヤである。製品化された暁には……
①内部に取り付けられたセンサーが常時、空気圧、温度、摩耗などのデータを読み取ってクラウド上にアップする
②データが異常値を示したら、すぐにドライバー(車載機器や通信端末など)、ロードサービス会社、ヨコハマタイヤ系列店などにその旨が伝達され、迅速な安全対策およびスムースな修理・交換のアクションに繋げる
……という理想の流れがつくれるようになるとのことだった。
※ヨコハマタイヤ提供
もうひとつ、CASE対応ものとしては『Self Seal Concept Tire』」があった。これは、パンクしたとしてもしばらくの間は走り続けられるポテンシャルを持つタイヤ。内部に塗られたジェル状のシーリング剤が、たとえクギが刺さって穴が開いたとしても、すぐにそれを塞いで急な空気漏れを防ぐようになっている。無人の自動運転車やカーシェアリングなどで常時運行しているクルマにとってはパンクは難敵となることが予測されており、それへの対策ということのようだ(CASE対応でなくても嬉しい機能ではあるが……)。
※ヨコハマタイヤ提供
ブリヂストンタイヤは
新素材タイヤでCASEに貢献
ブリヂストンタイヤのブースにもCASE時代におけるパンク対策のためのコンセプトタイヤが展示されていた。ただし、こちらはパンクしたあとの対策ではなく、パンクそのものをなくすタイヤだった。
それが写真にある外側が赤く塗られたタイヤ。見てわかるようにひとつの素材を立体的に組み合わせてタイヤにしている。使っている素材は、ゴムと樹脂を分子レベルで結び付けた世界初のハイブリッド素材SUSYM(サシム)で、白く塗ってある部分が固く、赤く塗ってある部分はゴムのようにしなやかになっている。つまり、空気を充填せずとも、それだけで走行できるタイヤなのであった。
これに関しては複数の説明員に話を聞いた。以下はその要約である。
「CASE時代のクルマは大容量のバッテリーなどの部品搭載によって重くなるうえ、シェアリングなどによって一台ごとの走行距離も増えるので、どうしてもパンクが起きやすくなる。それで、パンクすると、自動運転であっても走れなくなるし、シェアリングサービスなどでは時間とお金の無駄が発生してしまうことになる。しかし、このタイヤは強靱でかつ空気も要らないので、履けば、そうした問題点をすべてクリアすることができる」
「実は、このタイヤ、新しい素材を使ってタイヤを開発したらどうなるかを試してみたら、図らずもパンクしないタイヤになったという経緯がある(笑)。実際に製品化までには立体形状の隙間にゴミや泥などが入りこまないようにする必要があるわけだが……これからのCASE時代、この意外な経緯から生まれたパンクしないタイヤの活躍にぜひ期待してほしい」
このほか、ブリヂストンタイヤは『走行中ワイヤレス給電タイヤ』というCASE対応のコンセプトタイヤも展示していた。
聞けば、これ、スマートフォンのワイヤレス充電と同じ原理を活用しており、道路に埋め込んだ通電コイルから伝わる磁気によって電力を発生させ、それを充電・給電することによってタイヤホイールのなかに組み込んだモーター(インホイールモーター)を動かす仕組みになっているのだという。展示されていたタイヤのホイール内にはモーターしか入っていなかったが、将来的にはここに充電のためのバッテリーも組み込まれる可能性があるらしい。
道路の至るところにコイルを敷設するとなると壮大なインフラ整備となるので、まだまだ先の話になるだろうが、もしそうしたインフラ整備と同時にこのタイヤの製品化が実現すれば、EVに乗る人はわざわざ充電ステーションに立ち寄って充電せずとも街中や高速道路を延々と走り続けられるようになる。そのメリットはかなり大きいだろう。
来るCASE時代には、タイヤメーカーがいま以上にクルマの構造やインフラ、カーライフスタイルの変化に深く関与していくことになることをはっきりと示唆する展示といえた。
『アウトオブキッザニア』は
新しいモーターショーを象徴
最後に、今回のモーターショーで実施された新しい試みについて少しだけ触れておきたい。
今回の東京モーターショーは、有明エリアの東京ビッグサイトと青海エリアの各種施設に分かれての開催となっていたわけだが、青海エリアのほうは『FUTURE EXPO』をテーマに掲げ、CASEを体現するコンセプトカーを東京ビッグサイトよりも数多く並べるなどし、まさに未来感たっぷりの展示風景を展開していた。
そして、その未来感はクルマの展示の仕方だけでなく、新しく催されたイベントにも色濃く反映されていた。
象徴的だったのが『アウトオブキッザニア Iin TMS 2019』だ。
これは、人気の子ども向け職業体験施設である『キッザニア』をモーターショー用にアレンジして導入、開催されたもの。会場に設置された仮想の街にはクルマの整備工場、部品工場、デザイン工房、レーシングピットなどが軒を連ね、そこを訪れた子どもたちが楽しみながら仕事愛とクルマ愛を育むことができるようになっていた。
われわれが取材したときは、プレスレビューの日だったため、プロの子役たちによって体験の模様が披露されていたのだが、そのことを差し引いても実に楽しげな様子が見てとれた。実際、期間中のイベントには多くの一般の子どもたちが集まり、大いに好評を博したらしい。すぐに成否が判断できないにしても、たぶん10年後にはいい成果が生まれてくるに違いない。その日がくるのが楽しみだ。
やはり、クルマの明るい未来を提案しようとするときに、これまでのようにクルマ好きの大人たちだけにカッコいいコンセプトカーを展示しているだけではダメで、将来、そうしたクルマに乗るであろう、そして扱うであろう子どもたちに関心をもってもらえる工夫がないと意味がないのである。それにクルマ業界だってよくならない。当たり前のことかも知れないが、そうしたことの重要さにちゃんと気づき、その方向に大きく舵を切った運営側の英断は高く評価されるべきだろう。次回もこの方向での進化と深化を期待したいと思う。
とにかく今回は、「モーターショーはもうオワコン」などといわれながらも、フタを開けてみると、近々世に出るリアルな電動車たちや未来へ向けたイベントの数々など、見どころが満載だった。1日歩いただけで、かなりお腹がいっぱいになった。「どうもごちそうさま」と言いたい。(文:みらいのくるま取材班)
(1) もうすぐ欧州で“セカンドカー”として走りだすリアルなEVたち
(2) ぶっちぎりでEV化するか、じわじわとEV化するか、それが問題だ!
(3) スズキはいつかきっとリーズナブルな電動車を国内で発売する!
(4) 三菱は進化形のPHEVシステムや電動4WDでSUVを過激に変えていく!
(5) タイヤもCASE時代にふさわしい革新的な進化を遂げてゆく!