画像提供:三菱自動車、以下同様
世界初の量産型EVとして登場した『i-MiEV(アイ・ミーブ)』は国内外で高い評価を獲得し、後に始まるEV化時代のベースを築くに至った。後編では、その高い評価の一端を紹介しつつ、これまでの10年の輝かしい足跡をたどる(年表付)。
圧倒的な加速感に高評価続々
2009年に、これまでにない新しいクルマとして登場した『i-MiEV』は、多くの人々の耳目を集め、各メディアも概ね好評をもって迎え入れた。雑誌でいえば、自動車専門誌だけでなく一般誌までもが高評価の記事を掲載している。
ひ弱な電気自動車」という先入観を裏切る「走り」にも感動。モーターならではの発進時のトルク、加速感には圧倒された。(DIME臨時増刊号 2009年7月30日号「エコのミカタ」山根一眞)
i-MiEVは完璧に商品領域に達している。ベースとなった軽自動車を上回る快活な加速と圧倒的な静粛性を筆頭に、その商品力は革命的だ。これに慣れたらもう普通のクルマには戻れないだろう。三菱の開発陣は本当によく頑張ってこのクルマを練り込んだと思う。(週刊文春 2009年8月27日号「カーなべ」渡辺敏史)
圧倒的な加速感……。そう、当時、三菱自動車は『i-MiEV』の特長として、①走行中のCO₂排出ゼロ、②100%電気で走る(ガソリン不要なので経済的)、③静かでキビキビ、快適な走り(エンジンとは異なる加速性能)、④日常ユースに十分な走行距離(当時発表されていた航続距離は10・15モードで160㎞)、⑤3つの充電方式(AC200VならびAC100Vの一般コンセントからの普通充電と急速充電器に対応)の5つを挙げてアピールしていたのだが、この中でもとくに③のエンジン車とは異なる加速性能に多くの賛辞が寄せられたのである。
ちなみに、①の走行中のCO₂排出ゼロについては、気候変動が顕著になっているいまでこそEVの重要なメリットの一つとして認識されるようになっているが、2009年ごろの日本のメディアの論調を眺めてみると、それよりもガソリン不要であるが故に化石燃料枯渇の危機に対処できるメリットにより価値を見いだしていた感が強い。そこに10年という短いようで長い時の推移が実感できる。
「時期尚早」の弊害と功績
『i-MiEV』はしかし、すべてにおいて好調だったわけではない。肝心の販売台数があまり伸びなかった事実がある。
法人向けが中心であった2009年こそ、目標販売台数1,400台はクリアした。しかし、個人向け販売が始まった2010年は目標台数4,000台に対して実績が2,541台に留まったのを筆頭に、以降も低調な台数の年が続いた。国内販売では2011年の2,552台が最高記録となっている。
台数が伸びなかった要因としてはさまざまなことが考えられるが、性能への高評価の一方で、当初から長きにわたって発せられ続けた「EVというクルマの登場は時期尚早」との声がじわりと影響したことは否定できない。
その多くは、①航続距離がエンジン車に比べて短いこと、②充電インフラが未だ不十分であること、③補助金が出るにせよ価格がかなり高いこと、を普及のための懸念材料として挙げ、「まだ実用的とはいえず、購入には慎重になるべき」と結論づけていた。結局、それがあたかも不変の真実のように一般ユーザーに伝わり、後に懸念材料が改善を見せたとしても、積極的な購買心理を呼び起こすことができなかったのである。
世界初の製品は、往々にして「時期尚早」の概念にやり込められがちということだろう。
ただ、早くからCO₂の影響による地球温暖化に対する問題意識を高めていたヨーロッパにおいて、『i-MiEV』はけっこうな健闘を見せた。たとえば、環境を重んじる北欧の国ノルウェーで、2011年1~5月の小型車クラス(Aセグメント車)累計販売台数において、ほかのエンジン車を上回りトップに立ったのはその象徴的な出来事であろう。
今、ヨーロッパから世界中に怒濤のように広がり始めているEV化の波は、2015年のフォルクスワーゲンの燃費不正問題ならびにパリ協定、さらにはそれらを受けてのCAFE規制の影響が大きいといわれているが、彼の地におけるEVそのものの実用性と市場受容性についての確信は「時期尚早」であった『i-MiEV』がつくったといっても過言ではないのである。
EVの給電メリットの確立に寄与
世界初の量産型EVの『i-MiEV』は、最近にわかに注目度が高まっているEVの給電能力の分野においても先駆けとしてのエピソードを残している。
話は2011年の東日本大震災直後に遡る。三菱自動車は、ガソリンが不足していた被災地に電気で走る『i-MiEV』を89台提供し、救援活動に役立ててもらっていた。そんな中、避難所となっていた中学校で一人の女性教員が三菱自動車の社員に「避難所では電気が不足しがち。『i-MiEV』のバッテリーから電力が取りだせればとても助かる」と訴えてきた。それは非常に切実かつ理に適った訴えだった。
しかし、当時は『i-MiEV』から100ワット以下の電力は取りだせたものの、1500ワットクラスの電力を取りだすための装置がなく、残念ながらその要望には応えられなかった。
ただ、その声はしっかりと三菱自動車社内に届けられ、真摯に検討すべき課題として受けとめられた。それが証拠に、直後から社長の号令一下で世界初のEV用外部給電器「MiEV power BOX」の開発が始まり、わずか1年足らずの翌2012年4月にその製品化がなし遂げられている。通常、製品開発に時間がかかる自動車メーカーとしては異例のスピード対応であった。
現在発売されているEVやPHEVの多くは給電能力ならびにそのための装置を有しており、災害発生時には停電への緊急対応、平時は電源がないところでのアウトドアレジャーなどに役立つようになっている。
さらには、エコ住宅のコンセプトの一つとして、昼間は太陽光パネルで発電した余剰電力を電動車と家庭用蓄電池に充電し、夜はその電動車と家庭用蓄電池から電力を家庭に供給できるようにするV2H(Vehicle to Home)も実用化されてきている。こうした電動車による給電システムの早期実現は、『i-MiEV』とMiEV power BOXの先駆けがあってこそのものと言えるのである。
「次の100年」に向けた序章の10年
時は下って、発表から10周年まであと1年ほどとなった2018年の4月のこと。『i-MiEV』は全長を従来の3395mmから3480mmへと拡大し、軽自動車ではなく登録車(白ナンバー)扱いとなって登場した。
それまで幾度かあった改良には歓迎の声が多くでたものだが、この改良には惜しむ声が少なからず出た。「あの小さくてカワイイEVのままでいてほしかった。それに税金面のメリットもなくなってしまう」と。
しかし、このサイズ変更にはやむを得ぬ事情があった。道路運送車両の保安基準の改正に伴う対歩行者安全強化のためにフロントバンパーを大きくする必要が生じたのだ。すなわち、「安全性はなによりも重んじられるべきもの」との認識からのサイズ変更であった。発表10周年を直前にした、筋の通った改良と取るべきだろう。
そして、遂に節目のときがやってきた。『i-MiEV』は2019年の6月5日、登録車として記念すべき発表10周年を迎えたのである。
たしかに形と規格は変わった。だが、これまで述べてきたように、世界初の量産EVとして10年にわたりモータリゼーションの歴史に刻んできた足跡の大きさと価値は、不動のものとして残り輝いている。以下に示したアイ・ミーブ発表10年(発表前含む)の歴史を改めてたどってみれば、そのことがはっきりと見えてくる。
いうまでもないことだが、『i-MiEV』のストーリーはこれでジ・エンドというわけではない。これからもその環境にいい、軽快な走りは続いていくだろう。そして、10年の間に培われた技術と知見をベースに、さらなる魅力をたたえたEVが誕生してくるのも間違いないところだろう。「次の100年」に向けたストーリーはまだ序章を終えたばかり。三菱自動車がつくりだすEVの物語の新章の始まりを、ともにわくわくしながら待とうではないか!(文:みらいのくるま取材班)
『i-MiEV(アイ・ミーブ)』10周年記念ストーリー
次の100年へ向けクルマ社会の扉を開けたEVのパイオニア!
世界で実用性と市場受容性を証明しEV時代の礎を築いた!