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BookReview⑮『CASE革命 2030年の自動車産業』- CASEは、たった一字違いのCAFEで推進力が増している。

2020年1月17日更新



トヨタが電動車550万台販売を
5年ほど前倒ししたワケとは?

トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、2015年に公表した『トヨタ環境チャレンジ2050』を、2017年により具体化し、「2030年に電動車を550万台以上販売する」という目標を明かにした。

このとき、多くの人たちが「HV(ハイブリッドカー)以外の電動化に消極的にだったトヨタがようやく重い腰を上げた」との好意的な声を上げたわけだが、EV化推進が急務と考えている人たちにはあまり受けがよくなかった。

電動車販売550万台以上の内訳が、HVとPHV(プラグイン・ハイブリッドカー)が450万台以上、EV(電気社自動車)とFCV(燃料電池車)で100万台以上と、EVの比率が低目に見積もられていたからだ。

「本格的なEV時代になると言われている2030年に450万台以上ものHVとPHVを販売し続けるだなんて、HVへのこだわりが強すぎるのでは?」との批判的な声が少なからずあがった。

ところが、この2019年6月7日に、トヨタは『EVの普及を目指して』というメディア向け説明会を開き、そこで先に挙げた「電動車販売550万台以上」という目標を5年程度前倒しして2025年に達成できるであろうとの報告を行った。550万台には、もちろん「EVとFCVで100万台以上」が含まれている。(参照:https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/28416855.html)

これにはEV推進派の人たちもさすがに唸った。HVとPHVのボリュームが大きいとはいえ、あと5年ほどでEVとFCVの販売を100万台以上(実質EVが主)にするというのは、かなり急な上昇カーブになるからだ。

このトヨタの慌しい急展開は、何がどうなったのか?

説明会のプレゼンテーションの後に行われた質疑応答では、記者から「EVに対して姿勢が変わったのか? 背景にはフォルクスワーゲンなどの(EV化への)積極な姿勢への対向意識があるのか?」という主旨の質問があった。

それに対し、トヨタの寺師茂樹副社長はフォルクスワーゲンへの対抗意識を否定し、「スケジュールは想定内」とし、ただし、それが実際に達成されるかはお客さまの購入動向次第としつつも、次のような趣旨の説明(概略[補足などの加筆あり])を行っている。

最近、欧州で、CO₂排出量を自動車メーカー別に規制するCAFE(Corporate Average Fuel Efficiency=企業別平均燃費基準)について、2030年には今の半分くらいに抑えなければならないことが決まった。これはアメリカのZEV規制や中国のNEV規制どころではなく、「販売するクルマの半分をEVに置き換えなさい」というくらい厳しい燃費目標なのだが、今後、同様の規制が世界中に広がっていくと考えている。

こうした厳しい規制が広がる中で、自動車メーカーがビジネスを続けていくためにはより一所懸命にやっていく必要がある。2025年までに、トヨタは、まずHVでできる限りCO₂排出量を下げていき、足りないところをPHV・EV・FCVでカバーする形でCO₂排出量削減を図る。とにかくすべての品揃えをして、お客さまがどのような購買をされようとも、CAFEに対応できるようにしていかなければならない。(『CASE革命 2030年の自動車産業』より)

欧州におけるEV化の奔流は
CAFEの厳格化で激しくなった

実は、この本『CASE革命』は、2018年11月に発刊されたため、当然ながらトヨタの電動化施策の5年前倒しについては一切触れられていない。

しかし、近ごろの各自動車メーカーの急激なEV化の流れは、ある意味、CAFEの厳格化がつくったものだとはっきりと書いている。

その要約はこうだ。

①2015年9月にフォルクスワーゲンのディーゼル不正が発覚。欧州にディーゼル不信を生んだ。

②その直後、2015年12月には世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2度未満に抑えるという歴史的な「パリ協定」が成立。欧州は目標達成に向け、世界的なリーダーシップを発揮することとなる。

③パリ協定の目標達成のために、欧州委員会は、2021年に自動車メーカー別のCO₂排出量を平均95g/kmにすべしとのCAFEを発表。さらに、2030年にはそれを68g/kmまでに引き下げるというより厳しい規制内容も公表した。

④2021年の95g/km達成自体が難しいことなのだが、2030年の68g/kmは電動車の開発販売をかなり強力に推進させないと達成が困難なことは明白。欧州の主要メーカーはこの厳しい規制の中で将来的なビジネスを成り立たせるべく一斉にEV化の動きを始めた――。

つまり、トヨタは、こうした厳格なCAFEの適用が欧州のみならず世界中に広がっていくと見て、その中で自社のビジネスを健全に成り立たせるために、HV・PHVはもちろんのこと、EV・FCVの普及を従来以上に強化した。その結果が、「電動車販売550万台以上」という目標の5年前倒しにつながるというわけである。

実際、トヨタの説明会直前の6月3日に、日本の経済産業省と国土交通省が新車販売の新しい燃費規制(各自動車メーカーの全販売台数の平均で割り出す燃費の規制)を明らかにしている。それは、現行の新車の燃費規制が2020年度にガソリン1ℓあたりの走行距離を平均20.3㎞にすべしとしていたところを、2030年度に平均25.4㎞を達成すべしと厳格化した内容となっていて、明かに日本版CAFEの様相を呈している(トヨタとすれば、その辺りはすでに視野に入っていたのだろうが)。

この本は、こうした急激なEV化の現象をはじめとしたCASE(Connected=ネットワークに常時つながるクルマ、Autonomous=自動運転、Shared&Service=シェアリング&サービス、Electric=電動化)の動向および予測について、それぞれが推進されている背景・理由を含めて詳しく書いている。
著者は、CASEという4つのトレンドがそれぞれどのように進むのか、そのプロセスを読者に向けて明らかにするという記述姿勢に徹している(先行する多くの議論がそこをうやむやにしている感があると、著者は序論で指摘している)。つまり、過去の出来事を検証しつつ、できるだけ精緻な未来予測を行おうという意図がはっきりしている。
そして、CASEという4つのトレンドについて語りつつ、常に「2030年のモビリティ産業の覇者は誰か?」というこの本の最も大きなテーマに紐付ける行為を忘れない。
そのため、先述した、トヨタの「電動車販売550万台以上という目標の5年前倒し」というような事態が発生するたびに、ページを開いて読み直してみたくなる。
著者のアナリスト然とした筆致が、一般読者からすると断片的で唐突なきらいがあるにせよ、今後のクルマの世界の変化を論理的に予言する一冊として貴重である。(文:みらいのくるま取材班)



『CASE革命 2030年の自動車産業』
・2018年11月20日発行
・著者:中西孝樹
・発行:日本経済新聞出版社
・価格:1,700円+税

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